昨年はコロナ禍のロックダウンにより多くの会社員が労働時間を減らされ、国から休業補償(Kurzarbeitergeld)を受け取った。これらの該当する人々に今年は確定申告(Steuererklärung)の義務が発生する。
今回はそう言う訳でドイツにおける確定申告の方法及び、私が覚えている基本事項を少し紹介したい。自営業ならおそらく税理士に頼む事になるだろうが、会社員の確定申告はある程度のドイツ語力があれば独力で十分可能で、場合によってはかなりの税金が返ってくる。(もっとも、今年に関してはおそらく多くの人が追加で税金を払う羽目になるが、それは後で説明する)。
まず、確定申告を行う方法であるが、確定申告用のプログラムを購入しインストール、後は源泉徴収票などを元にデータを入力すれば自動的に計算してくれる。私が利用しているのは20ユーロ程度のWISO Steuer Sparbuchで、この計算が間違ったことはこれまで一度も無い。
税務署にデジタル提出用のアカウントを持っていれば、そのままプログラム上から提出も可能である。或いは印刷してポストで出しても良い。期限は7月31日である。プログラムに関しては10ユーロ程度のもっと安いものもある。但し私の場合は微々たるものだがこのブログによる収入もあるので、自営業者用の提出機能も入ったものを使っている。
基本的には、昨年のような特殊な状況を除けば、多くの人にとって確定申告をするかは自由であり、還付の見込みが少なければする必要はない。しかし、少なくとも、以下のような項目に当てはまる高額な出費をした場合、その金額は課税所得から控除されるので、確定申告を行えばかなりの金額が返ってくる可能性がある。
職業上必要な出費(Werbungskosten)
通常発生しない生活上の負担(Außergewöhnliche Belastungen)
世帯や住居関連の出費(Haushaltsnahe Dienstleistung)
上記以外の特殊な出費(Sonderausgabe)
Werbungskosten中には会社までの交通費、仕事が理由での引越しなど、その他あらゆる個人で支払った職業関連の費用が含まれる。但し全ての就労者には自動的に1000ユーロ分は源泉徴収で既に考慮してあるため、この費用が年間1000ユーロを超えて始めて税金の還付の可能性が出てくる。
Außergewöhnliche Belastungenの中には医療費や葬儀費、介護費、災害からの復旧費用などの、通常稀にしか発生しない大きな健康上、生活上の負担などが含まれる。但しこれもある程度の金額を超えた分だけ課税所得から控除される。控除額に関する基準は個人状況によってかなり差があるので一概には言えないが、単に眼鏡を買い替えたとか、風邪を数日ひいたから薬を買ったくらいでは普通何もならない。
Haushaltsnahe Dienstleistungは住居の修理費や清掃費、自宅での介護サービスや保育など、世帯保持、住居関連の費用である。私は一昨年引っ越しをした時に旧住居の修繕を行ったので、昨年はかなりの額の税金が還付された。もっともこれも必ずしも全額控除できるわけではなく、一定の制限、限度額が存在する。
Sonderausgabeは上記のいずれにも属さない必要、或いは特殊な出費であり、例えば幼稚園の費用や寄付金、学費などもこれにあたる。これもそれぞれの出費に限度額などが設定してある。
あとは細かいことはプログラムが自動的に計算してくれるので、全てを覚える必要はない。重要なのは原則振込か自動引き落としで支払っている事で、領収書を取っておくことだ。とはいえ、最近は税務署も金の動きを把握しているのか証拠書類を要求する事は少なくなった。尚、婚姻などで税金クラスが1から3などになる場合も、還付が来る。基本、確定申告はやった方が良い。
さて、ここまでは税金の還付を前提に記したが、残念ながら税金を追加払いしなければならないケースも当然ある。そして、そのような場合の確定申告は、どのみちルール上義務化されている。例えば、昨年のように国から休業補償を受け取っている場合、共働きで一方の税金クラスが5の場合であるなどの場合である。この場合個人の状況にもよるが、かなりの確率で追加払いが来る。国がこれを易々と見逃すわけはない。
因みに、では何故その休業補償を受け取った場合税金を追加払いする確率が高くなるかは、ドイツ語でいわゆる”Progressionsvorbehalt”と呼ばれるルールが存在するからだ。これは日本語にすれば累進課税率の留保となる。難しく聞こえるが、理屈はそれ程難しくない。
例えばの話、昨年の所得の合計が25000ユーロだったとする。うち15000ユーロは給料、10000ユーロはコロナ禍による国からの休業補償とする。休業補償の10000ユーロは非課税所得なので、所得税は普通なら年収15000ユーロの税率が適用される。これはおよそ9%であり、つまり税金は15000 x 9%=1350ユーロと源泉徴収票に一旦は記される。
しかし、休業補償の10000ユーロは非課税だが、所得税率に影響を及ぼす特別ルールがある。具体的にはこの場合、給料15000ユーロの税率9%ではなく、休業補償によって増加した25000ユーロの税率である16%が最終的に適用される。つまり、最終的に払わなければならない額は15000 x 16% = 2400ユーロになる。
この結果、確定申告により2400 – 1350 =1050ユーロの税金の追加払いが発生し、ガーンとなる。これがいわゆる”Progressionsvorbehalt”のルールで、休業補償だけでなく、失業給付などの一部の国からの補償に適用される。因みに、上記の数値は私が適当に思いついたケースであり、実際に存在するかはわからない。あくまで理屈としてこんな感じだという事である。
また、共働きの場合、多くが一方が税金クラス3、もう一方が5の場合が多いと思うが、この場合はほぼ確実に税金の追加払いが来る。この理屈は割愛するが、私はまんまとこのパターンに該当する。私は既にプログラムで計算したが、この税金クラス要因と先の休業補償によるProgressionsvorbehaltで、これまでにない額の追加税金を今年は払う羽目になる。
とは言え、税金の制度は非常に複雑なので、最終的に誰がどの位の税金を支払うかと言うのはかなり個人個人でかなり異なる。決して一括りにして言えるものではない。故にやって見なければわからない。どうしても自分でするのが難しいと言うのであれば、最寄りの”Lohnsteuerhilfe”に相談したら良いだろう。