ドイツで驚異的な人気を誇るハイテク調理マシン、テルモミックス

以前、なぜ日本で当たり前のウォシュレットがドイツで普及していないか考察した記事を書いた事がある。日本の電化製品はしばしば世界から見ればその特異な趣向でガラパゴス化してると呼ばれる事もある。しかし、逆にドイツ或いはヨーロッパでは大人気だけど、日本では普及していないハイテク機器と言うのも存在する。それがドイツのフォアヴェルク社が製造、販売をするハイテク調理マシン、テルモミックス(サーモミックス)だ。

私はテルモミックスを利用した事がないので恐縮だが、簡単に言えば、テルモミックスは料理に関するあらゆる機能を備えた万能調理マシンで、これさえあれば、素人でもあらゆる料理を完成させる事が出来る。その価格は先週発売された新モデルで1359ユーロ(約17万円)だ。一般家庭にとっては非常に高額な商品だと言えるが、人気は数年前まではうなぎ登りで、2008年に3,86億ユーロだった売上は2015年には13,75億ユーロにまで伸びた。

更に南ヨーロッパのラテン系の国々でテルモミックスは”Bimby”の名で流通しており、ポルトガルに至っては各家庭の4割が所持しているとされ絶大な人気を誇る。それどころかドイツの有名レストランでも一部の作業で利用されている事が分かっており、個人利用だけでなく業務用にも重宝される存在でもある。

このテルモミックスの基となるオールラウンド調理機器が登場したのが1961年だそうで、当時は”rühren”=「かき回す」、”kneten”「練る」、”schneiden”=「切る」、”raspeln”=「おろす」、”mixen”=「混ぜる」、”mahlen”=「挽く」、”entsaften”=「搾る」と言う7つの機能を備えたものだった。

それ以降、テルモミックスは新たな機能をモデルチェンジの際に搭載し、既に”kochen”=「茹でる」、”dampfgaren”=「蒸し焼く」、”emulgieren”=「乳化させる」などの調理機能を備えた他、先週新たに登場した新型モデルでは”anbraten”=「炙り焼く」の機能も加わっている。

またテルモミックスにはcookidooと呼ばれるオンラインで専用のレシピポータルが存在する。このサービスは年間36ユーロを払えば利用可能だそうだが、ここでは単にレシピを見るだけでなく、自分用にレシピを管理し、更にそのレシピをテルモミックス本体にダウンロードする事が出来る。更にcookiedooのサイトにはスーパーマーケットのREWEへの注文ボタンが設置されており、必要な食材があればそのボタンを押して配送を受け取れるようにまでシステム化された。

もはやテルモミックスは一部で既に単なる便利な調理マシンのレベルを超えたステータスシンボルとまで言われる程になっており、その存在はiphoneのキッチン版に例えられる程にまでなった。多くの業界が低価格競争に巻き込まれ、利益を削りながら生き残りをかけているこのご時世に、商品のブランド化とデジタル化でおそらく高利益も叩き出しているフォアヴェルク社は皆が羨む成功を手にしたと言えるだろう。

しかし、テルモミックスはヨーロッパでこれだけ人気のある商品ながら、全く日本では普及していない。調べる限り、2004年頃まではテルモミックスは日本で手に入れる事が出来たそうだが、売れ行きが芳しくなく撤退に追い込まれた。ヨーロッパ人からすれば、不思議で仕方がないのではないか。そして、この理由についてはJapanmarkt.deで紹介してあった。

それによると、まず日本の台所はかなり狭く、テルモミックスは大きすぎること、そしてその割には機能が少なすぎる事が挙げてあった。しかし私が思うに、まな板や鍋、フライパンを使用しても同様に場所は取られる。

テルモミックスがどの程度大きいかは知らないが、機能が少ないと言ってもこれ一台で複数の仕事をこなしてくれるなら、寧ろ小さい台所ならメリットになるのではないか。まあ私は料理は殆どしないので今ひとつイメージ出来ないが、売れない理由としてはいまいち納得しかねる部分もある。

しかしもう一つの理由、テルモミックスを販売するためのホームパーティ商法が日本では機能しないと言うのは正しいだろう。実はこのテルモミックスはドイツでは既に述べたように大人気だが、ネットや店舗では手に入れる事が出来ない。全て販売員がテルモミックスに興味がある顧客とアポイントを取り、ホームパーティを催して家庭を訪問し販売している。

そして、まさにこの手の販売が日本では一部で悪徳商法と見なされ、間違いなく歓迎されない。もっとも本来なら複雑な機能を持った高額商品である以上、事前に十分に説明し、実際にテストする事は、不当なクレームや返品を防ぎ、長期間に渡り商品を満足して利用して貰う為に必要な事でもある。それを踏まえた上で、日本のカスタマーに合ったマーケティングの手法が必要になるだろう。

因みに、ドイツでこのホームパーティ販売での売上は業種を問わずここ10年で2倍になったと言われる。ネットの発達で顧客のニーズを把握するのが容易になったからだろう。私はこのようなホームパーティに参加した事はないが、もともと興味のある人に楽しんで貰いながら、商品のメリットを誠実に説明すれば、質の高い購買となり顧客も満足するという事だ。ネットショッピングが全盛の時代だが、一方で商品によってはクラシックかつ人間的な販売方法が再評価されつつある。

最後に、テルモミックスが日本で売れない理由として、やはりドイツ人と日本人の持っている元々の価値観の違いというものを指摘しておきたい。

あくまで私の印象では、ドイツ人は徹底的に効率を重視する。あらゆるものをシステム化、機械化し、限られた時間の中で最大限の効果を出そうとする。おそらくドイツ人にとっては料理が機械で作られたものか、手作業のものか、(日本人ほど)大した意味をなさない。短時間で、程々に美味しいものが出来上がればそれで良いのだ。テルモミックスは高いが、何年か使えば元は取れるし、なにより仕事の後のストレスが軽減できる上に、自宅でのパーティにも使える。トータルで見れば経済的にも、生活文化的にも大いに役立つと考える。

一方の日本人は、苦労して手間ひまかけた作業に対して非常に高い価値を見出す。少なくとも料理に関しては、機械で作られたものと手作りで作られたものでは、手作りのものが優れていると考えるだろう。私もそうだ。私はテルモミックスで作られた料理を食べた事は無いが、やはり上手な人であれば手料理の方が美味しいのではと考えているし、美味しくても機械で作ったと言われれば、なんか味が落ちた気分になる。実際にどこかのレストランのコックと、素人がテルモミックスを使って対決するビデオがあるが、やはり最終的には手料理の方が高い評価を得ている。

もちろん、これはあくまで傾向としての話で、大いに私の独断と偏見が入っている。ドイツ人でもテルモミックスを評価しない人もいるし、逆に日本人でもこのような機械を積極的に利用したいと考えている人はいる筈だ。

おそらく、ドイツの有名レストランもテルモミックスを使用している通り、あくまで一部の作業、或いは料理に関してはテルモミックスを使った方が人間の手よりも質が高い。機械ならば人間よりも多くの力を出し、更にそれを均一にしたり、正確にコントロールすることができるから当然だろう。もっとも、それに1200ユーロも投資するかどうかはまた別の話になる。

そして、このドイツで大人気で売り上げもウナギ登りだったテルモミックスであるが、2017年の売り上げはなんと国内でマイナス22%という意外な数字が出た。それまで毎年記録的な売り上げを叩き出していたので、その反動が出たのかもしれないが、もはや国内での成長は頭打ちになっているという見方もある。

フォアヴェルク社はこのような状況を踏まえてか、通常よりも短いサイクルで先週新型のモデルを発表した。価格は1359ユーロだ。しかし、これは予告なしに発売されたもので、直前に旧モデルを買った顧客からクレームが発生する事態になり、多くのメディアに取り上げられた。

また、国内での伸びがそれほど期待できない状況では、当然国外での販売に活路を見出す事になる。当然ながら大市場であるアメリカ、中国が主なターゲットだ。しかし、これもそれぞれの国の特有の商慣習、料理に対する文化などがある上に、大きなお金を投資をしなければならない。テルモミックスがこれらの海外で販売を継続できるほどの人気を獲得できるかは、まだ未知数だと言えるだろう。