テューリンゲンでAfDとグルになったCDUとFDP、大騒動に発展する

昨年の秋には旧東ドイツ三州で州議会選挙が行われたのだが、そのうち最も状況が複雑なのがテューリンゲン州だった。というのも、テューリンゲンはもともとCDUが最大勢力だったが、Linke、SPD、Grüneの左派政党が政権を担当していた。それがSPD、CDUのの弱体化、AfDの躍進で最終的にLinke、CDU、AfDの三つ巴の争い、つまり極左(Linke)、中道(CDU)、極右(AfD)政党がほぼ同勢力で議席を分け合う事が予想されたからだ。

そしてその結果であるが、予想どおり極めて厄介な事態となった。得票率(議席数)見てみると:

Linke:31,0%(29)
AfD:23,4%(22)
CDU:21,7%(21)
SPD:8,2%(8)
Grüne:5,2%(5)
FDP:5,0%(5)

この結果、誰が誰と連立を組み、政権を担当するか、或いは誰がテューリンゲン州の首相となるか全く不透明な状態となった。何故なら、これまでのLinke-SPD-Grüneの左派政権では過半数を取れない。CDU-FDP-Grüneの中道政権も数が足りない。CDUは極左のLinkeとは連立は組めない。

そして肝心のAfDだが、基本的にどの党もAfDに協力しない事を大前提にしているので、AfDは政権には絶対入れない。更に注目のAfDをテューリンゲンで率いるのは、党内でも筋金入りの極右とも呼ばれるビィエルン・ヘッケである。このAfDと少しでも仲良くしようものなら、もはやナチス扱いである。

そして、この非常に厄介な状況で行われたテューリンゲン州の首相選挙で、ドイツ全土を大騒動に巻き込むスキャンダルが発生した。

まずこの選挙に立候補したのは、前期の首相であるLinkeのラメロウとAfDの支持する無所属のキンダーファーターである。ルールは一人の候補者が過半数の過半数(45)の得票を得れば決定となるが、二回の投票で誰も過半数を取れない場合、三回の投票では単純に一番多く得票した立候補者が当選となる。また三度目の投票で割り込みで立候補する事も可能である。

順当に行けばラメロウの再選が濃厚だが、ラメロウを支持する左派(Linke,SPD,Grüne)の議員(42名)だけでは過半数に足りない為、若干のCDU、FDPからの得票が必要になる。FDPは経済リベラル政党だが、全体的に見ればかなり右派に入る。

そして、一回目の投票ではLinkeラメロウは43票、AfDキンダーファーターは25票、22票は棄権となった。二回目はラメロウ44票、キンダーファーター22票、24票が棄権となった。ラメロウはいずれも僅かに過半数に届かず、三度目の決選投票となった。ここでは、先に述べたように単純に最も多く得票を得た立候補者が当選する。

しかし、ここで州議会選挙で僅か5%の得票率しか得なかったFDPのケマーリッヒが割り込みで参戦してきた。5%は議会に入れる最低の得票率なので、ケマーリッヒは本来議会で全く力などない。しかし、その三度目の投票、そのケマーリッヒは45票を獲得、44票のラメロウを抑えて当選するという驚きの顛末を迎えた。

ここで何が問題かといえば、FDPのケマーリッヒはAfDとグルになった事だ。左派からの支持を取り付けられないケマーリッヒが当選するには、AfD議員からの票が必要となる。AfDは最初の二度はキンダーファーターと言うダミーの候補者を立てて、取り敢えずラメロウの過半数を防ぎ、三度目の決戦投票でFDPのケマーリッヒに投票した。つまり、AfDは自党の候補者では端からチャンスは無い事は知っていたので、他党で自らの影響力を最も行使できる候補者を担ぎ上げる裏工作を持ち出し、FDPケマーリッヒはこれに乗り当選した。

それだけではない、ケマーリッヒが当選するにはAfDのみならずCDU議員からの票も必要になる。つまり、CDUもAfDとグルになってFDPケマーリッヒに投票し、極左のラメロウを追い落とした。裏で詳しくどのような密約があったかは知らないが、何れにしてもFDP、CDUは表向きはAfDを敵対視する民主主義政党を謳いながら、裏でAfDとグルになって支持率5%のFDP議員をテューリンゲン州の首相に祭り上げた。

しかも、テューリンゲンAfDのボスはあのビィエルン・ヘッケである。世間の評価から言えば、ナチスと裏取引したも同然である。

この結果には各方面から非難が紛糾しており、ドイツ全土を巻き込む大騒動となった。更に当然ながらこれでCDUとFDPの民主主義政党としての評価は地に落ちた。両党の党首、FDPクリスティアン・リンドナー、CDUアンネグレート・クランプカレンバウアーの負ったダメージは計り知れない。

そして昨日、この曰く付きの謀略でテューリンゲンの首相となったケマーリッヒは各方面からの圧力により就任早々辞任を発表するという前代未聞の事態となった。今後事態がどのように転ぶかは誰も知る由もない。場合によっては州議会の再選挙もあり得るだろう。その場合、CDUの得票は地に落ち、FDPは議会にも入れない可能性が高い。極左と極右の支持が上がり、テューリンゲンは更に分断されるだろう。

しかし、筋金入りの極右と言われるテューリンゲンAfDのボス、ビィエルン・ヘッケであるが、CDUとFDPを抱き込んでこれ程の混乱をドイツ政治にもたらすなど、やはり唯の右翼ではない。自らの権力獲得のためには手段を選らばない、非常に謀略に長けた危険人物であることは間違いないだろう。