前回、ドイツが企てていたアウトバーンの有料化プランが隣国オーストリアの訴えによりEUから却下されたと言う記事を書いた。このプランは実質外国人ドライバーからのみアウトバーン料金を徴収するというもので、既に来年の10月からは開始の予定だったのだが、EUから外国人差別的と認定され頓挫した訳である。これでドイツはこのプロジェクトの為に注ぎ込んだ金を実質ドブに捨てる事になり、現交通相のアンドレアス・ショイアーは痛烈な批判に晒されている。
しかし、オーストリアはこれでは飽きたらなかったのか、偶然なのか、ドイツの逆鱗に触れる更なる追加措置を実行した。ドイツからイタリアへと向かうチロル地方の国道を封鎖したのである。ドイツ− イタリア間を移動する上で、このチロル地方は必ず通過する交通の要綱であり、故にここを封鎖されれば非常にドイツからのドライバーには都合が悪い。とりわけ、夏になるとイタリアへ向かうドイツ人が激増する。
もちろん、国道が封鎖されてもオーストリアの高速道路を使えばイタリアへたどり着く事はできる。しかし、こちらも渋滞が頻繁に発生する上に有料である。
ついでにチロル地方について説明しておけば、チロル地方は非常に風光明媚であると言っておきたい。ドイツのほぼ真南に当たるアルプス山脈が聳えている地域であり、有名な都市は過去に冬季オリンピックも開催されたインスブルックだ。私は今年の春先にアーヘン湖の辺りをドライブしたが、それは息を飲むほどの美しさだった。その道が通行止めになっているかまでは知らないが、もしもそうなら旅行者としては残念な事だ。
もちろん、オーストリア側にもチロル国道を封鎖する理由がある。交通量の増加に伴う渋滞や騒音などで現地の住民のストレスが増大しているからだ。オーストリアはわざわざ警察を動員し、インスブルック方面や近隣の村に向かう車、つまり地元住民を通過させ、バカンスへ向かうドライバー、すなわち多くのドイツ人を通行止めにしている。
これでドイツのドライバーはイタリアへバカンスへ行くのに強制的にオーストリアの高速道路を通らざる得ない。つまり、高速道路料金を払わなければならない上に、確実に渋滞にはまる。更に面倒なのがオーストリアの場合、単に高速道路に引き返すだけでなく、どこかでヴィネット(オーストリアの高速道路通行許可証)を車に貼りつける必要がある。
当然のことながら、ドイツ、とりわけバイエルン政府はこれに激怒して法的措置も辞さない姿勢を示している。交通相ショイアーおよびCSU党首ゼーダーは一斉に「差別だ」と捲し立て、更にイタリアもこのドイツの訴えに賛同の意を示している。EUはこれに仲介して解決を図る模様だ。
しかし、オーストリアの場合、既に被害を被っている現地の住民を守るという具体的かつ切迫した理由がある為、ドイツの言い分が完全に通るとは思えない。騒音や排気ガスだけでなく、救急車や警察が渋滞などで通過できない場合もある。単なる嫌がらせや差別、或いは高速道路料金の巻き上げ口実だと非難するわけにもいかないだろう。
何れにしてもドイツは、自国の高速道路有料化プランが差別的だという理由でオーストリアに頓挫させられ、その上に今度は自国のドライバーがオーストリアの有料高速道路を強制的に利用させられると言う極めて腹立たしい状況となった。やはり自国ファースト主義に関して言えば、さすがにオーストリアの方がドイツよりも一枚上手という印象だ。
しかし、両国が最終的にどのような解決方法を図るかは不明だが、このような一方的かつ自己中心的な解決をごり押しするのが正しいという風潮には、個人的には甚だ疑問を感じざるを得ないと言っておこう。