ドイツ新首相、オラフ・ショルツとは何者か

9月末に行われた連邦議会選挙から2ヶ月半が経ち、ドイツはSPD(社会民主党)、Grüne(緑の党)、FDP(自由民主党)による新たな連立政権が誕生する事が正式に決まった。この政権はそれぞれの党の色である赤、緑、黄を取って「信号機連立」”Ampelkoalition”と呼ばれている。

前回2017年の選挙後は揉めに揉めた末の政権樹立だった事を考えれば、かなりスムーズな移行になる。SPDとGrüneが多数を占めることから左派色の強い政権の印象だが、ここに少数ながら自由経済主義を謳うFDPが入りアクセントを加えている。

そして、この政権を束ね、新首相として指揮を執るのがSPDのオラフ・ショルツである。ドイツはアンゲラ・メルケルの時代が非常に長かった為に、国際的にもひときわ注目を集める新首相だろう。少し個人的な印象を記しておく。

まず、このショルツがメルケルの後を継ぐ首相になると1年前に予想したなら、間違いなく鼻で笑われていただろう。何故なら、所属するSPDが記録的な低空飛行に喘いでおり、もはや終わった党だと思われていた。新たな中道リベラル政党として期待されていたのは環境政党Grüneであり、これと保守のCDU/CSU連合が連立政権を組むという按配だと誰もが考えていた。それ程、首相候補としてショルツは当初大穴だった。

ところが、CDU/CSUがラシェット、Grüneがベアボックという首相候補を立て、いよいよ選挙戦が始まるとSPDはみるみるうちに復活し、最終的に僅差でCDU/CSUに勝利してドイツ第一党に躍り出た。ショルツ自身もSPDの首相候補として圧倒的な人気を集めるに至った。

これはショルツが何か特別な事をしたと言うよりも、CDU/CSUとGrüneが勝手に転げ落ちたと言った方が正しいだろう。或いは、このコロナ禍の真っ只中で、やはり人々が大きな政府を望んだ事が大きい。そういう意味では確かにGrüneもSPDと政策は似通っているが、やはり極端な環境優先の政策が来るのではないかと敬遠されたと思われる。

また、ショルツはメルケル政権事に既に財務相であり副首相でもあった。コロナ禍においてドイツは企業や国民に手厚い補償を実施したが、ここでの責任者としてショルツは決定的な役割を果たしている。この安心感、実績は非常に大きい。

事実ショルツは非常に落ち着いた話しぶりの、寡黙な人物である事が知られている。議論の際にも殆ど感情を表に出したり、大きな声を出す事は無いらしい。ショルツはドイツ北部の都市オスナブリュック出身の63歳だが、如何にも北ドイツ人と言わんばかりの落ち着きぶりだ。

有名なのが、そのあまりにも機械的で、ボソボソと話す様子が”Scholz”と”Automat”(自動販売機)を掛け合わせて”Scholzomat”などと揶揄されている事である。しかし、逆に言えば如何なる場合でも常に冷静沈着である事が知られており、これは現在のコロナ禍でまさに必要とされている資質だと言える。

財務相に就く前は北ドイツ最大の都市であるハンブルクの市長を務めた。個人的に記憶に残っているのが2017年のG20サミットである。この時開催地であるハンブルクは左翼の暴徒によって散々に破壊されてまるで戦場の様になった。ここでショルツは各方面から痛烈な非難に晒された。

他にもこのハンブルク市長時代に”Cum-Ex”と呼ばれる巨額の脱税トリックを容認した疑惑があり、これは現在でも追求されている。同様に昨年のワイヤーカード粉飾決算スキャンダルも財務相として責任が問われている。

ただ、総じて言えばこれまでのショルツの仕事はすこぶる高く評価されており、国民からも安定して人気の高い政治家である事は確かだ。派手さもカリスマ性も無いが、分析力や調整力に長けた堅実なタイプという点で、党は違えどメルケルに近いスタイルだと言われている。

いずれにしても、SPDのショルツが首相になった事で、これまでよりも若干社会福祉、公共のサービスに政策の重点が置かれると思っている。特に年金問題や、子供の教育、新たな住居の建築など、これまでの記録的な好景気の一方で蔑ろにされていた点に改善が期待できるかもしれない。また、経済成長と環境問題の解決をどのように両立させていくか、腕の見せ所でもある。この点では新たな経済環境相となったロベルト・ハベックにも注目が集まるだろう。