コロナ禍ドイツ最大の誤算、ワイヤーカードの破綻

最近になってまた新型コロナの感染者が若干増えており注意喚起されているが、現段階ではまだ第二波と呼べるほどの数字にはなっていない。故に新型コロナに関してドイツは近隣諸国に比べて比較的マシな状況であるのだが、これまでのこのコロナ禍で一つ大きな誤算があったとすれば、大手金融サービス会社、ワイヤーカードが19億ユーロもの金額を粉飾していた事が判明し、破綻した事だろう。

これはドイツ史上最大の金融スキャンダルとして連日報道が続けられており、幹部の一人はロシアに逃亡した。はっきり言えば、これはドイツの国家としての威信も傷つける大失策だったと言える。

ます、ワイヤーカードについて簡単に説明すれば、ミュンヘン近郊のアッシュハイムを拠点とするデジタル技術を駆使した決済サービスやシステムを提供する新興企業であった。1999年に設立したのち急速に成長し、2018年にはコメルツ銀行を蹴落としてDAXに上場した。

当然ながら世界各国へ国際展開もしており、この分野でドイツ屈指のビッグプレーヤーとして持てはやされた。とりわけデジタル分野に関してはドイツは世界で遅れを取っていると言われており、国を代表する企業としても期待大だった事は想像に難くない。ドイツ政府も積極的にこのワイヤーカードの海外展開を推進していた事が明らかになっている。

もっともこのワイヤーカードに関しては、イギリスの経済誌であるファイナンシャル・タイムズ(以下FT)記者が粉飾決算の兆候を既に2015年の時点で捉えていた。そして、この記者は2018年に不正を指摘する旨の記事を公表し、これでワイヤーカードの株価は一気に20%も暴落した。当然の事ながら当時ワイヤーカードはこれに激怒しFTとこの記者を相場操縦の罪で訴えている。

そして、痛い事にドイツ国家が運営する検査当局BaFinも当時このワイヤーカードの不正疑惑を追及してこなかった。それどころか、BaFinはワイヤーカードを擁護する立場を採り、逆にFTとこの記者を相場操縦の罪で訴えている。このFT記者たちもワイヤーカードが自分たちを訴えるのは予想していたとは言え、さすがにドイツ当局までもが便乗して訴えてくるとは予想していなかった。

ワイヤーカードが倒産した今となってはこのFTの記者たちが正しかった事が証明された訳だが、結果としてドイツは国家ぐるみで史上最大規模の犯罪企業の片棒を担いでしまった事になる。

当たり前だが、この件についてドイツ政府は誠実に隈なく説明する必要がある。はっきり言えば、国家が運営する検査当局などプロ中のプロの集まりだろう。ワイヤーカードの不正について全く知らなかったなどあり得ない。焦点はドイツ政府がいつから、どの程度このワイヤーカードの怪しげな経営について把握していたかだろう。

とりわけ、財務相であり副首相でもあるオラフ・ショルツはこの件で今後の政治生命を問われる厳しい状況に追い込まれる。ショルツはコロナ禍の対応で非常に国民に好感度を上げた政治家のひとりであり、ここ数年存在感の無くなっていたSPDの政治家ながら次期首相にも名前が挙がるほど株を上げていた。

今回のコロナ禍ではこれまで信頼されていた大企業も軒並み苦境に陥っているケースが見受けられる。これは当然ドイツ経済に大きな打撃をもたらしているが、あくまでワイヤーカードのような犯罪企業の化けの皮が剥がれた事は肯定的に受け止めている。これまで金儲け第一でこのような企業を散々チヤホヤしてきた政治社会を見直す良い機会にはなるだろう。