2018年のドイツを象徴する言葉は”Heißzeit”

今年も例によって”Das Wort des Jahres”= 「今年を象徴する言葉」がドイツ語協会によって発表された。ここ数年は難民を意味する”Flüchtilige”、事実よりも感情が優先される昨今の不安定な情勢を表す形容詞”postfaktisch”、そして昨年のCDU/CSU、Grüne、FDPの連立政権交渉の失敗を意味する”Jamaika-Aus”だった。いずれも昨今の不安定な政治情勢を表す言葉だったが、今年は天候、気候を表す造語”Heißzeit”となった。

“Heißzeit”は見ての通り、”heiß”=「熱い」と”Zeit”=「時間、時代」が組み合わさった合成語である。簡単な単語の組み合わせなので大まかな意味は直ぐに想像はつくだろう。言うまでもなく、今年の異常な暑さを表現している言葉である。しかし、この何の変哲もなさそうな造語が選ばれたのは、寧ろ”Eiszeit”=「氷河期」の対義語としての意味が大きい。”Heißzeit”=「熱帯期」とでも言えるだろうか。

この”Heißzeit”という言葉がメディアに出現したのは、今年の夏に研究者たちが地球温暖化の影響を警告した事に始まる。それによると、仮にパリ協定を順守できたとしても長期的には地球の気温は4から5度くらい上昇し、海面は10から60メートルも上昇する可能性があると言うものだ。つまり、地球は”Eiszeit”=「氷河期」ならぬ”Heißzeit”=「熱帯期」に突入すると言うものだ。

もっともこの警告、予測に関してはかなり曖昧なもので、研究者たちの間でもかなり意見が割れている。また、いたずらにパニックを煽ったり、極論で世間を分断することに批判的な論調も少なからず存在する。

しかし何れにしても、今年の夏が非常に高温、乾燥していたことで、この手の議論がかなり盛んになったのは間違いない。私の感覚から言っても、今年は11月中頃まで異常に暖かく乾燥していた。冬が来たと感じたのはつい最近の話だ。昨今ドイツで緑の党が躍進している理由の一つは、今年が巷で言われている地球温暖化の影響を肌で感じた1年だったからだろう。

語学的にも”Eiszeit”と”Heißzeit”と言う全く反対の意味の言葉ながら、一方で両者のその響きはそっくりであり、その意味でも非常に興味深い言葉の組み合わせとなった。

因みに、今回は2位以下も簡単に紹介したい。何れも現在の世相を表した興味深いものになっており、当ブログでも既に取り上げたテーマもある。

2. Funklochrepublik

“Funkloch”=「電波の通じない地域」と、”Republik”=「共和国」の合成語だ。ドイツは社会のデジタル化に遅れていると言われており、昨年あたりからこの改善は大きな政治的テーマになっているが、依然として携帯電話の電波が届かない地域は多いと言われている。この状況を揶揄した言葉だ。

3. Ankerzentren

“Anker”=「錨」と”Zentrum”=「センター」の合成語である(ZentrenはZentrumの複数形)。具体的にはドイツに来る難民を一時的に収容する施設である。現在内務相のホルスト・ゼーホーファーがこの必要性を強硬に主張したことで有名だ。今年の8月からバイエルン州で幾つかのAnkerzentrenが既存の建物を利用して開設されている。

4. Wir sind mehr

これは単語ではなく文章で「我々の方が多い」を意味している。ケムニッツでの難民による殺傷事件を受けて右翼が暴力的デモを敢行したが、これに対抗してドイツの著名なロックミュージシャンが集まり、反暴力、反差別を訴えるコンサートを行った。その時のモットーが”Wir sind mehr”であり、20000人程度が予想された来場者は65000人にまで膨れ上がった。

5. Strafbelobigt

“strafen”=「罰する」”belobigen”=「表彰する」という相反する意味の言葉が組み合わさった合成語である。連邦憲法擁護長としてあるまじき発言により、罰としてポストを解任されたハンス・ゲオルク・マーセンが、政治的事情で別の高位のポストへ昇格するという矛盾した人事を意味している。昨今の混乱した政治情勢を如実に表しているだろう。

6. Pflegeroboter

“Pflege”=「介護」”Roboter”=「ロボット」の合成語で、文字通り介護用ロボットである。おそらく日本では既に当たり前になっているこのロボットであるが、ドイツではまだテスト段階だ。しかし、高齢者数の増加に伴い、介護用ロボットの需要は今後増えることは間違いない。

7. Diesel-Fahrverbot

“Diesel”とはディーゼル車、”Fahrverbot”は通行禁止を意味する。数年前まではドイツで大人気だったディーゼル車も現在ではドイツで問題視されている大都市部の大気汚染の主要な要因とされる。一部の大都市では既にその締め出しが議論されていたが、今年に入っ多くの都市で続々とディーゼル車の進入禁止の判決が下されている。

8. Handelskrieg

“Handel”=「貿易」と”Krieg”=「戦争」の合成語、読んで字のごとく貿易戦争である。輸出大国のドイツにとってアメリカと中国、EUとの貿易戦争は甚大な負の影響をもたらす可能性がある故、この言葉は社会においても招かれざる客として大きく取り扱われている。因みにドイツの就労者の4分の1は輸出関連業に従事していると言われている。

9. Brexit-Chaos

見ての通り、イギリスのEU離脱に伴う混乱を意味する言葉だ。予想通り泥沼化してきたBrexitであるが、もはや多くの時間は残されていない。イギリスはドイツにとって5番目に大きい輸出相手であり、およそ750,000もの職がイギリス輸出関連と言われている。しかし、現状イギリス首相メイがこのカオスを収束できる見通しは立っておらず、ドイツ経済界も大きな懸念を表明している。

10.die Mutter aller Probleme

直訳すれば「すべての問題の母」となるが、これは内務相のゼーホーファーがケムニッツでの右翼デモを受けて発言したものだ。つまり、難民問題こそがすべての元凶だと主張した。これは要するに、難民問題こそが社会を分断し、AfDのようなポピュリストが台頭した要因だという事だろう。これはしかし、難民や外国人の存在自体がすべての問題の元凶と誤解され得る発言でもあった。