2019年のドイツを象徴する言葉は”Respektrente”

2019年のドイツはここ数年に比べると大衆が驚くようなインパクトのあるニュースが少なかった年でもあるが、例によってその年を象徴する言葉である”das Wort des Jahres”が発表されているので遅ればせながら紹介したい。昨年は”Respektrente”が選ばれた。

これも例によってドイツ語に良くある合成語で、”Respekt”は「尊敬」、”Rente”は年金の意味である。直訳すれば「尊敬年金」となる。この言葉を理解するには、まずは昨年議論されたドイツの年金受給者の貧困問題、また、それに伴って導入される見込みである”Grundrente”を概ね理解しておく必要がある。

まず、年金受給者の貧困問題はここ数年で先鋭化してきたテーマと言える。ドイツで貧困とされるのはおよそ月に917ユーロ以下の収入の人とされ、これまでこれに該当する人たちの多くは無職者、或いはシングルマザーなどであった。しかし、ここ数年でこれに該当する年金受給者の割合が急激に増加しており、2006年で10,3%だったのが、今日では15,6%にまで上昇した。

更に高齢者であれば、この貧困から抜け出すために自力で収入を増やす事はほぼ不可能になるので、極めて状況は深刻となる。なぜ、ここに来て年金受給者の貧困率が上がっているのかは、非常に多岐にわたる模様なのでここでは割愛するが、何れにしてもこの状況を放置しておくわけにはいかない。そこで導入される見通しなのが、いわゆる”Grundrente”である。

この”Grundrente”とは、簡単に言えば、長年働き年金を支払い続けたにも関わらず、年金受給額が極めて低く、貧困に陥る年金受給者に対して、追加の年金が受給されるシステムである。SPD(社会民主党)の説明によると、例えば40年間平均の4割の収入で働いた理髪師はこの”Grundrente”によって受給できる年金額が538ユーロから933ユーロに上がる。

要するに、そのような真面目な人々を貧困、更には役所に助けを乞うような状況に陥らせてはならないという事、つまり、このような収入の低い仕事を長年続けてきた人々に対して”Respekt”=「尊敬」の念を持つべきであるというのが、この”Grundrente”の基本的な考え方である。現在のドイツの労働相であるフーベルトゥス・ハイルはこの”Grundrente”を”Respektrente”=「尊敬年金」と呼び、この”Grundrente”の認知に一躍買った。

とはいえ、例えば受給者が長年低賃金で働いてたとは言え、実は莫大な資産を持っていたなんてことがあれば本末転倒である。この為政権内でもCDU/CSUは、事前に受給者の審査をするべきだと主張し、この”Grundrente”の導入議論はかなり紛糾した。仮にそうなればこれは”Respektrente”と呼べる代物にはならなかっただろう。しかし、最終的には受給のため役所にわざわざ申請し、審査を受ける必要はないとのルールで合意している。Grundrenteは2021年の1月から受給が開始される見通しである。

因みに、第二位は”Rollerchaos”だった。”Roller”とは、ここでは今年公道で利用が認可されたEスクーターの事であり、”Chaos”は文字通りカオスである。便利で環境に優しいとは言え、導入後はその利用に際して多くの混乱を引き起こした為だ。このEスクーターに関しては個人的にも非常に興味を持っているので、機会があればその利用ルールなどをまとめてみたい。