今年も例によってその年を象徴する言葉が発表されたが、今年はもはや説明不要の言葉となった。”Corona-Pandemie“つまり「コロナ・パンデミック」である。
この他にも今年はコロナ関連の合成語が多数生成された。”Corona-Krise”「コロナ危機」、Corona-Massnahme”「コロナ対策」、”Corona-Regeln”「コロナルール」、”Corona-Hilfe”「コロナ援助」、”Corona-Zahlen”「コロナ関連の数」、”Corona-Demo”「コロナ対策反対デモ」など、挙げればきりがない。詰まるところ、今年は世界が”Corona-Jahr”「コロナの年」で、説明する間もない。
そう言う訳で今年は2位から10位までの言葉を紹介する。うち8つがコロナ関連の言葉だった。
まず2位は”Lockdown“である。もっとも一口にロックダウンと言っても、ドイツの場合はバイエルンが「外出制限」であり、他の州は「接触制限」だったので外に出ても構わなかった。このような強硬な措置を広義のロックダウンだと認識している。現在実施されているルールはいわゆる”Lockdown light“と呼ばれており、私は日本語で準ロックダウンとしている。
3位は”Verschwörungserzählungen“である。”Verschwörung”とは「陰謀」であり、例えば「コロナは中国で開発された生物兵器」と言った類の話になる。コロナ禍ではこの手の話が本当に多くでた。”Erzählung”とは日本語の辞書を引けば「物語」とおそらく書いてあるが、この単語には真実ではなくフィクションを語っているニュアンスがある。つまり根も歯も無い陰謀説と言う事だ。
尚、よく使われる言葉で”Verschwörungstheorie”言葉があるが、こちらは「陰謀論」と訳されるだろう。しかし、根も歯もないファンタジーをそもそも”Theorie”「論」というのはおかしいので”Verschwörungserzählung”という言葉が使われるようになった。因みに、この手の陰謀説はドイツで極めて隠避されるので、口に出さない事をお勧めする。
4位は”Black Lives Matter“、世界的な黒人差別反対運動となった。今年は再び黒人に対する差別、暴力が話題になった年でもあり、これに対する抵抗運動はドイツにも直ぐに波及した。言うまでもないが、ドイツにも人種差別が蔓延っているのは事実だ。
5位は“AHA“、日本には「3密」という言葉が出来ているが、おそらくドイツでこれに対応するのがこのAHAである。これは”Abstand”「距離」、”Hygiene”「衛生」、”Alltagsmaske”「日常のマスク」の頭文字をとったもので、コロナ禍で各個人が日常で意識して守るべきルールである。因みに、最近ではこれに”L”と”C”が加わった。Lは”lüften”「換気」、Cは”Corona-Warn-App“「コロナアプリ」を意味している。
6位は”Systemrelevant“、”System”「システム」と”relevant”「重要な」の合成語で「システム上重要な」という意味の形容詞である。日本語で「システム」といえば、やや機械的な意味が強いが、ドイツ語のそれはもっと広範に使用される言葉で、体系的、組織的な事がらは概ね”System”と言われる。
この”systemrelevant”とはコロナ禍の中、とりわけロックダウン中でも社会を回す上で欠かす事の出来ない重要な物事を指している。例えば医療関係、食料品関係、公共交通機関、保育関係などの職業は”Systemrelevante Berufe”「社会システムを保つ上で重要な職業」と呼ばれている。
7位は”Triage“、日本語でも浸透したトリアージである。春先のスペイン、イタリアなどの医療崩壊はドイツにも衝撃を与えた。ドイツは幸いにもそのような事態に迄はまだ至っていないが、トリアージを現実的に想定しなければ事態になっているのは事実だ。
8位は”Geisterspiele“、”Geist”「幽霊」、”Spiel”「試合」の合成語で「無観客試合」となる。ロックダウンにより各国がサッカーのリーグを中断する中、ドイツは厳しい防疫措置を施し無観客でリーグをいち早く再開した。これには賛否両論あり激しい議論になったが、ロックダウンで庶民の娯楽もままならない中、サッカーが再開された事は僅かな救いでもあった。
9位は”Gendersternchen“で、英語の”Gender”「性別」とSternchen”「星印」の合成語である。ドイツ語は人を表す単語は女性形と男性形があり、例えば日本人男性なら”Japaner”だが、女性なら”Japanerin”となる。両方を表す場合、通常”Japaner/in”などと記される。しかし、ここで最近はJapaner*inとしばしば記され、この星印”*”が男性でも女性でもない人を表すとして”Gendersternchen”と呼ばれる。もっともドイツ語の正書法としてはまだ認められていない。
最後は”Bleiben Sie gesund“と言う文章となった。これは訳せば「健康でいてください」となる。新型コロナが蔓延して以降、このフレーズがE-Mailの締めに使用されるようになった。私もこのフレーズは相手の健康を願う意味でも自然と使うようになった。これも例によって賛否両論あるようだが個人的には問題ないと思っている。